伊織は困った顔をして、なるみに頼んだ。
「真樹が熱を出した。
仕事は俺が何とかするけど、側について居られない。
帰りは早いんだろ?頼めないだろうか?」
「帰ってくるまでは大丈夫な熱なんですか?」
「ああ。本人は寝てりゃ治るとは言ってるけど、真樹は笑ってごまかしてしまうだろ。
医務室に来るいつもの先生に診てもらうように連れて行ってやってくれないか。」
「わかりました。
保健の先生に説明して、診てもらえるようにします。」
なるみが真樹の部屋へ行ってみると、顔を赤くして寝ている真樹がいた。
「な、なるみちゃん・・・早く学校へ行きなさい。」
「何言ってるんですか?
看てくれる人がいないのにほったらかしなんかにできるわけないでしょう。」
「寝てりゃ治るって。近寄るとうつるから早く学校へ・・・ゴホッ」
「だめっ。真樹さんも学校の保健室まで行くんです!
診てもらってお薬もらったら、授業でも補習でも受けますから。」
真樹はなるみに付き添ってもらって、いつものように保健室を訪ねてくる先生に診てもらうことができた。
ずいぶん前から風邪をこじらせていたのではないかと医師は言った。
「そんなにお仕事が大変だったんですか?」
「そんなことないよ・・・。だましだましっぽく仕事してたかもしれないけどね。」
「もしかして私に風邪を移さないようにしてた?」
「まあね。あ、移るといけないから・・・」
「帰れはなし。
伊織さんに頼まれたんだから。
病気のときは、もっと頼ってください。
私の唯一の身内なんですからね。」
「うん。ごめんね・・・。」
その日なるみは一晩中、真樹の看病をし続けた。

