虹が見えたら

そして伊織は緑茶を入れて、真樹の前に湯呑を置いた。


「俺に似て、ときどき物言いが嫌味ったらしいところは勘弁してやってくれよな。
それとさ、おまえさんに無理はしてもらいたくないんで、変な遠慮とか気遣いなんてしないで思ったとおりに行動してほしい。

嫌だったら捨ててくれていいからな。
生活の面倒と学費の援助でも、すごく感謝してるから。」




真樹はお茶を一口飲み込むと、伊織をにらみつけた。



「誰が誰を捨てるって?
少なくとも、僕がなるみを捨てるなんてことはあり得ないさ。
会ってみたいと思ったきっかけは、確かにおまえの腹違いの妹だからだったけど、1日1日側にいるだけで、どんどん僕という人間が甘くなっていくのがわかる生活なんて人生で初めてだ。

社員からも冷たいとか感情が見えないなんて言われた僕がだよ。
なるみちゃんを笑顔にするために、どうしたらいいか必死に考えて・・・。

こののめり込みようは、自分でも怖くなる。
自分で仕掛けておいて、線引きしてまたもどってきてしまう。
いい歳してるのにな・・・。」



「そうか、すまないな。
いい歳してるから、怖い気持ちはわかるさ。
男のなんたるやわかってる女を相手にするなら、こっちもタヌキになれるけどな。

なるみじゃ、天然過ぎて、反動が痛いんだろ?
けど、俺もそんなあいつだから、幸せになってほしいと思う。
冬美はかわいそうだったが、その分なるみがおまえさんと幸せになってくれれば。」



「あのねぇ。ずっと様子見てたならわかってると思うけど、雲行きが悪いんだよね。
かといって、力づくでいうことを利かせるなんて僕にはできない。

保護者だからね。
いや、そうじゃないな。
なるみちゃんだからだ。

緊張されるよりも、空気みたいに側に居たいと思う。」




「重症にさせて、すまないな。」



「いや、こんな気持ちも悪くない。
若返った気分さ。」



そんな会話をした翌朝の登校前に、伊織がなるみの部屋を訪れた。


「伊織さん!?どうしたんですか、こんな時間に。」