食堂にまだ灯りが残っていたので、きっと伊織と真樹が話しているのだと思って、なるみはそっとのぞいてみた。
伊織の姿はなく、真樹が包丁で手首を切るようなしぐさが見えた。
「だめぇーーーー!」
「え!? わあぁぁぁぁぁぁぁぁーーー!!」
真樹は床に包丁を落としてしまい、なるみが真樹を押し倒して、のしかかった態勢になった。
「あいたたたた・・・なるみちゃん、いきなりタックルかけてくるなんてどうしたの?
包丁持ってたから危ないよ。」
「それはこっちのセリフです。包丁なんてダメです!」
「あれ、僕は小芋をむいていただけなんだけど・・・。
明日は伊織が実家の法事で休みをとったからね。僕が食事当番で。」
「えっ、小芋?食事当番??」
「なるみちゃん?」
「ごめんなさい、私てっきり真樹さんが手首に包丁をあててるのかと思って。」
真樹は落ちた包丁を拾い、調理台の上にもどしてから口を開いた。
「先輩から聞いたのかい?僕が心中事件にまきこまれた話。
もしかしてそれで・・・僕を心配してここへ来たの?」
なるみがコクンと頷くと、真樹はなるみの頭を優しく撫でた。
「ありがとう。家族がいるってやっぱりいいね。
なるみちゃんには心配かけたけど、僕は今すごくうれしいよ。
あのときは病院で伊織に見舞いにきてもらっても普通の反応ができないくらいダメージを受けてた。
好きでこの仕事してるわけじゃないのにって思いもかなりあったから、もう管理人なんてできないと思ってた。
でもね、親父が亡くなって、踏ん張るしかなくなってしまったから、僕が僕でないまま管理人をしていたかもしれない。
女の子なんてこりごりだとも思ってたんだけどね・・・僕で守ってあげられることがあるならって思うようになったんだ。
なのに・・・。」

