沢井はなるみの左手に手をのせて言葉を続ける。
「この手を振り払って、あの目立つ記者席から大声で怒鳴ったでしょう?
身の危険がせまっているのならともかく、本来ならおめでたい席だったのに。」
「あ・・・。」
「無我夢中で・・・と言いたいですか?」
「おぼえていません。私そういうのまだ考えられません。
大学に入ったばかりで、自分のやりたいことに触れてもいません。
でも、こうやって学生として生活させてもらえたことには感謝しなくちゃいけないし、とにかく止まってはいけないんです。」
「すべては卒業してから・・・ということかな?
でも、現実はそうのん気にもしていられなかった・・・。
真樹さんの能力、仕事実績、地位、もちろんルックスも、憧れる女性はたくさんいるみたいですね。
それなのに、個人的なつきあいのある女性はいない。
名前すら上がって来ない。
品行方正なのか、もしくは女に興味がぜんぜんないのかとまで言われて。
その彼があのざわついた声の中でなるみさんの声に反応して飛び出していった。
女性としてはうれしかったんじゃないのかな?」
沢井は自分で話していて意地の悪いことを言っていると自覚していた。
そしてふと、なるみの顔に視線をなげかけた途端に声をあげた。
「違う!そんなこというつもりなかった。
完全に僕の嫉妬です。申し訳ない・・・。
前も君の考えはきいていたはずなのに、僕はバカすぎですね。」
「沢井さんはとても優しい人です。
仕事のときは冷たそうって思ったけど、それが沢井さんのスタイルなんですよね。
今日ここに呼んでくださったのも、私に気晴らしさせてくれるつもりだったんじゃないですか?」
「そう。・・・わざとらしいとは思ったけど。
なんか僕の方が見透かされてるね。弱ったな・・・。
さて・・・と。海の方まで歩きませんか?」
「えっ、沢井さんお仕事はいいんですか?」
「今日は就職して、初めてのサボリです。あはははは」

