虹が見えたら


「久しぶりなんだ。自分の時間をこんな形で無理やりにでもって作ったのはね。
最初に会った時、過労で倒れてただろう。
あのとき、どうして自分はここまで仕事しなきゃいけないんだって思った。

激務は慣れているはずなのに、あのときは仕事が嫌なものに感じた。
本気で休息がほしいと思った。」


「私もびっくりしました。
ほんとに死んじゃうんじゃないかと思うほど、つらそうで。

それに、誰もご家族の方とか来られなかったんじゃ・・・」



「ああ。僕には家族はいない。
学生のときにね、僕だけクラブの合宿に出てて、その間に家族は交通事故で・・・。
城琳学院の理事長は僕の伯父なんだ。

伯父は自分の子とわけ隔てなく僕を育ててくれたから、すごく恩がある。
だから期待にこたえたくて、自分なりにがんばってきたつもりだ。
だけど、責任を負うようになってきたら理事長がつながっているせいで、学校とは関係ない部分でも人脈をほしがる組織がいろいろとね。

あ・・・ごめん。
こんな話して、気分を余計に害してしまうね。」



「もしかしてそういう話をしたのは私が初めてですか?
相談できるお友達とか彼女さんは?」



「はずかしながらいないんです。
仕事に追われて、約束が守れないからね。
デートやコンパみたいな席も出なかったわけじゃないんだけど、これから少し深く話せるかなって思うと、仕事が追って来るようで。」


「じゃ、今はどうして?
あっ・・・携帯の電源!切ってるんですか?」



「うん、今日は特別。
グチるつもりはほんとになかったんだよ。
3度も偶然に出会ったお姫様だから、どんな娘か知りたくなったのと、あの世界でも有名な実業家の須賀浦直樹の弟が家を飛び出してまで女子寮の管理人をしているところを見てみたかった。

名前を継がされたなら当然、兄の会社の関係ポストにつくはずだろ?
しかし、彼はみんな捨てた。
それじゃ、どこかで細々と就職でもしてるのかと思いきや、兄貴と同じ業界に斬りこんできたっていうじゃないか。」


「沢井さんにとっても真樹さんは魅力的な人なんですね。」


「ま、まあね。
けど気が変わった。
君の存在を知ってしまったからには、僕は彼と勝負をしたくなった。」