中学のときも、家の都合で修学旅行へ行けなかったなるみにとって、修学旅行という名前の響きも実際の旅行もすべてが新鮮な気がした。
とくに集団生活、集団移動がしたかったわけではない。
しかし、同じ学年の人が集まって動く不自由さがまた、なるみにとっては土産話の1つになること間違いなしになることであった。
観光地をバスで移動し、大きなホテルに宿泊。
流沢学院ならではかもしれないほど、贅沢な場所でもあった。
「なるみはここで何を買ったの?」
「え?」
「お土産よ~。まだ2泊あるからってボケッとしてたら、その土地の名産品は買えないわよ。」
「あ、そっか。
明日は移動しちゃうんだ。
でも、何にしようかなぁ。何がほしいかきいておけばよかったわ。」
「なるみはオーナーさんへのお土産探してるの?
それならさぁ、かわいいマスコットとか人形でいいんじゃない。」
「え・・・あ、そっか。」
管理人室には小さなぬいぐるみやマスコットの類が並んでいる。
真樹本人はすべてもらいものだと言っていたけれど、嫌がっていないようだし、クマさんのパジャマなどでもかわいいもの好きなのは知る人は皆知っている。
「かぼちゃの産地なのかな。マスコットがかぼちゃパンツはいてる。
『ネーム入れられます』って・・・お願いすればいいのかな。」
なるみは男の子と女の子のかぼちゃパンツをはいたマスコットを買うことに決めた。
そして、お金を払おうとしてネーム付けに少し持ち合わせの小銭がないことに気付いた。
「ごめ~~ん、私お札をフロントに預けてきちゃったの。
40円貸してくれない?
部屋にもどったら返すから。」
なるみがそう言った途端、隣に立った長身の男がさっと40円をレジに置いた。
「これで足りますね。」
「えっ?」
なるみは男の声に驚いて見上げると、温泉地で過労で倒れたその人が笑顔で立っていた。

