彼女が、演舞しているのは、彼もよく知る昔話だ。

国民なら、誰でもしってるくらい有名な話で、民話の挿入歌に合わせ、彼女は軽やかに、情熱的な動きで、挑発を繰り返していく。

客席が一体となって、
クライマックスを迎える。

歌唄いと共に、手拍子と客の唱歌が広がり、高速で通路へと舞進んでいたステップが、序序に静寂のステップへと変化する。

やがて

楽師が終演のリズムを打つ。


オリビアが、舞終えた場所は、扉ちかくに座った男の正面だった。

彼女は、その男を知るよしもない。

単に、顔をあげたとき、
視線がぶつかったため、
彼女は、ちょっと微笑んで、裏方へ引き上げていった。

花籠を店の女から渡され、嬉しそうに瞳を輝かせた後、彼女は店の奥に消えてしまった。

残された客達は、ひとしきり感嘆の声をあげた後、各々の空間に戻っていった風である。

楽師が、唱歌楽をかなではじめ、先刻の華やいだ雰囲気と気迫から、完全に解き放たれ、従来、そこにあるべき姿へと戻っていってしまった。