それがアザエルによるものだということはルーカスの焦った表情を見れば分かった。

持てる力すべてを注いで飛んだというのに追いつかれたとはさすがは四枚羽の悪魔だけはある。

しかし、衝撃はその一撃だけで次の衝撃はこない。

そして幸か不幸か衝撃で痛みは伴ったものの背中を押されるような形となり、倒れるようにして術式の中へ滑り込むことができた。




「ルーカスッ!」


伝えたいことはその一言で通じた。

ルーカスは大きく頷き、自らが作り出した術式の端に手を突いた。

途端、術式を織りなす文字が光始める。




「イヴを行かせるな!」


アザエルの声がしたかと思えば、ルーカスを拘束していた天使が私たちの頭上に空間転移してきた。

その手には聖剣が握られている。




「もう遅い」


やけに冷静なルーカスがそう呟いた次の瞬間。

横から現れたフェンリルが四枚羽の天使に体をぶつけた。

フェンリルの大きな体に体当たりされた天使はその先にいたアザエルを巻き込んで吹き飛ぶ。
アザエルの注意が逸れたのを確認したルーカスは私を見据えて言う。




「イヴ、準備はいいか?」


硬い表情のルーカスに私も緊張し、強ばった顔になる。