手が震えていたのに気づかれなかっただろうか。

ヒヤリと冷たいものが背中を伝うが…




「綺麗な短剣ですね」


アザエルはそれだけ言ってニッコリと笑った。

良かった……聖剣だとは気付かれていないみたい。

悪魔を滅するものだと言えど、鞘に収められた状態では何の影響もないことに改めて安堵した。

受け取った聖剣を袖に入れ、フェンリルの背に乗る。





「夕暮れまでには戻ってくると思います」

「どうぞゆっくり城下町を楽しんできて下さい。その品は明日でも構いませんので」


明日でも構わないのならルーカスたちに頼めばよかった。

そう思うも、自分から申し出たためそうも言えない。

それに今はアザエル様の見透かすようなルビーの瞳から早く逃げなければと思った。




「行ってきます」

それだけ答えてフェンリルとともに天窓から漆黒の空へ駆け上がる。






聖剣だと気づかれなくて良かった…



アザエル様はラファエル様の側近。

ラファエル様が許したとしても、アザエル様に気付かれればただでは済まされない。

私を一目見た時から“魔界を滅ぼしかねない存在”と言っていたくらいだ。

聖剣を持っていたことが知れれば……

その先を想像してブルッと身震いをする。




大丈夫…気づかれていないんだから。

それよりも早く城下町へ行かなきゃ。

日が暮れるまでには帰りたい。

そう思いながら城下町へ飛び立った。





その様子を見ていた者がいたとも知らず……