数時間前にいた駅に戻るとケイさんの自転車を取りに百円駐輪場へ。

そこでケイさんは私の荷物をカゴに入れ、自転車の後ろに乗せてくれた。


実は私、彼の漕ぐ自転車の後ろに乗るのが大好きなんだ。

いっつも舎兄が陣取っている場所だけれど、私はこの場所が大好き。


だって真っ向から吹く風が気持ちいいし、景色もいいから。
 

「さあて。シートベルトは締めたかい? 出発するぞ。自転車にシートベルトはないけどさ!」


おどけるケイさんに笑って、私達を乗せた自転車は街を走り出す。

風は髪をすき、揺れるスカートを靡かせ、私達を包み込んでくれる。

透明な風は色を見せないけれど、なんとなく暖色帯びているような気がした。


生暖かい風は心に穏やかさを抱かせたんだ。
 

自転車が横断歩道を渡り、長い上り坂に差し掛かる。

ケイさんは手慣れたように立ち漕ぎしてそこを上り切った。

苦労するだろうから下りるつもりだったんだけど、ケイさんはなんてことのない顔で自転車のペダルを踏んでいた。


うーん、喧嘩によく自転車を使うからケイさんも慣れちゃっているんだろうな。


毎日のようにヨウさんを乗せてびゅんびゅん自転車を漕いでいるみたいだから。


坂を上り切ったところで自転車は停止した。

なんでかというと、坂の頂上で私の名前を呼ぶ人達に会ったから。

私に声を掛けてきたのは中学時代の友達…、というよりクラスメートだった人達。


児島さんと永江さんだった。どういう仲といえば、簡単に挨拶を交わす程度で親しかったわけじゃない。


……わりと苛められていた類に入るかも。


だから声を掛けられた時は驚いたけど、その人達は私に久しぶりと挨拶してきた。

気分的に複雑だけど、取り敢えず私も挨拶をしておく。
 

「若松さん、久しぶりだね。なんだか随分、雰囲気が変わったみたいだけど」

「髪もバッサリ切ったんだね。あんなに長かったのに」


雰囲気が変わった。
それは不良さん達に会ってから良い方向に雰囲気が変わったんだよ。胸張って自慢できる。

心中で彼女達に告げると、「もしかしてデート中?」探りを入れられた。

なんだか口調的に貴方は恋愛できなさそうな子でしょ、みたいな言い方だったからムキになって大きく返事した。