田岡だった。

教室の中と外という、敷居を越えて。


ものすごくあっという間だったのに、その姿は、一瞬、スローモーションみたいに見えた。

田岡のこぶしが、嶋田さんに、向かう。剛速球で。


なぐられた嶋田さんがふっとぶと同時に、わたしのなかの、広大、がふっとんだ。


なにが起こっているのかと、思った。

目の前で起こっていることが、映像として絶え間なく流れ込んでくるのに、頭のなかで整理することが、できなかった。


田岡は、手を止めない。

制服のえりくびを持ち上げられ、ぶらさがった人間の影。

蛍光ピンクのシュシュが、異生物の血のように、長い髪にこびりついていて。


見たことのない、顔だった。

田岡じゃなかった。

殺すんじゃないかって。そう思うくらい。エサを追うライオンの牙より、のどもとに突きつける、刀の切っ先より、もっと。

もっと、するどい。


足がふるえだす。ゆがんだ机と、おかしい世界。わたしは、敷居をまたげないまま。