和は、哀しそうに眉を下げながらそれでも笑おうとしている。


『何言ってるんだ?』

『よんでるんだろ?……あいつが』


トンッと背中が押されて一歩和から遠ざかる。


『呼んでる?』


そりゃあ名前を呼ぶ声は聞こえるけど。
今更その声の所に行っても意味がないだろ?
あたしは、死んでいるのだから。


『いいんだ。俺はもう十分だから』

『和』


また、背中を押された。


―――――椿。


朔夜のあたしを呼ぶ声。


『本当に、俺はもう大丈夫』


ふわっと笑みを浮かべた和の表情はあの頃の和だった。


和は、ひらひらと手を振りながらあたしを促す。


『行ってこい。俺は先に行くから』

『和……』


あたしの戸惑いとは無縁に足は元来た道に戻っていく。