昂一が自分の事を
親にどう説明してるのかは知らなかったが
昂一の母親も父親も…
一言も拓哉の家のことには触れなかった。
「昂一〜!
桃香ちゃんにご飯持ってって〜」
キッチンから母親が昂一を呼んだ。
『桃香』
というのは昂一のお隣さんの一人娘で…
幼い頃に母親を亡くしていて
父親も留守がちなために毎日昂一の母親が『桃香』の分も夕ご飯を作っていた。
しばらく前に『桃香』の事で拓哉が昂一を問い詰めた事があった。
モテるのに女っ気の全くない昂一から初めて女の名前が出て…
からかった拓哉だったが
昂一から返ってきた答えは納得できなかった。
『…すっげぇ大事だから言わねぇんだよ』
なんで告白しないのか聞いた時の昴一の返事は
意味不明で…
でも
その後、すぐ昂一の言ってる意味が分かった。
『桃香』の家庭はちょっと複雑で…
その事で悩む『桃香』の傍にいてやりたいから
告白はしないらしい。
もしも告白して気まずくなってしまったら
悩む『桃香』の支えにはなれないから…
言ってる意味はわかったものの…
納得できるかは別だった。
「オレだったら言うけどね。
女なんか奪ってナンボだろ(笑)」
けらけら笑いながら言う拓哉に
昂一がフッと笑った。
「…本気じゃなければな」
そう言った昂一の切なそうな微笑は…
拓哉の心の奥で
今もまだ記憶されている。
オレもいつかこんな顔すんのかな…
昂一の顔を見ながら
ふとそんな事を思った。
男として生まれて15年。
未だ初恋は未経験。
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