父親も兄も最近はあまり家にはいないが

それでもたまに顔を合わせばため息をつかれる。


へらへら笑って見せるものの

内心ではそれが嫌で…


拓哉もあまり家には帰らなくなった。


女の部屋に家族に内緒で泊めてもらったり
友達の家に泊めてもらったり…


窮屈ではあったが

その方が気は楽だった。



母親は物心ついた時にはもういなくて…


拓哉が生まれてすぐに離婚したらしいが

今どこに住んでるのか

再婚してるのか…


と、いうか顔自体知らなかった。





「昂〜、泊めて〜」


『…またかよ』


中学入ってから一番つるむようになった昂一の家には
一番頻繁に泊まりに行っていた。


多いときには1週間に3日は泊まっていた。


なんだかんだ文句を言いながらも断ったことのない昂一は

拓哉にとって救いで…


いつもクールなくせに
でもどこか優しさを感じる。


昴一の何気ない優しさが
拓哉は好きだった。


電話を切ってから10分もしないで到着した拓哉を
昂一がうんざりした顔で向かい入れた。


「あら、拓哉くんいらっしゃい」


「こんにちわ!

いっつもすみません(笑)」


キッチンから声をかける昂一の母親に
頭をさげながら笑う。


「いいのよ。

昴一だけじゃつまらなくて(笑)


いつでも来ていいんだからね」


そう言って優しい笑顔を向ける昂一の母親は…

拓哉の理想の母親像だった。



そのせいもあるのか

拓哉は昂一の家が好きだった。



加藤家には流れない穏やかな空気が流れているから。




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