「なんで…?」
上原が小さな声で聞いた。
まっすぐに見つめてくる上原に
拓哉が微笑みかける。
「さぁね。
ただの気まぐれ?」
そう言いながら
上原の手から封筒を抜き取った。
「…加藤君」
封筒を持ちながら歩き出した拓哉を
上原が呼び止める。
その声に…
拓哉が立ち止まった。
「…センセーが賀川を好きなのは知ってるよ。
でも…
今回センセーを助けたのはオレだって事だけ忘れんなよな。
それだけは…覚えててよ」
振り返らないまま言った拓哉の言葉が
上原の心に届く。
しばらく沈黙が続いた後に…
「ありがとう。
絶対に忘れないよ。
…加藤君」
上原の言葉に
拓哉が背中を向けたまま手を振った。
いつかのように…
その日の放課後、
理事長室の会話を盗み聞きした生徒を発信源に
再び噂が流れた。
「なんか理事長の勘違いだったんだって」
そんな噂を耳にして…
拓哉が笑った。
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