「今日の始業式でなかったの?

今日からここの養護教員になった
上原 芽衣。


で、あなたは?」


「…3の1の加藤 拓哉」


拓哉は上原が白衣を着ていることに言われてから気が付いた。


上原が白衣をなびかせながら
3年の出席簿を手に取り拓哉の名前を探す。


「加藤君、欠席ばっかりじゃないっ

…どこか悪いの?」


さっきとは一転して
心配そうな表情をして振り向いた上原に

拓哉が笑顔を向ける。


「うん。

ここが悪いの」


そう言って指差したのは…

左の胸。


「え…心臓?」


「ううん。

心?(笑)」


もちろん悪いところなんかない。


生まれてから今まで経験した一番大きな病気はインフルエンザ。


ろくに風邪すら引いたこともない。


そんな拓哉を父親と兄は

『これだからバカは…』とよく皮肉っていた。



「センセーなら治せるかも。

オレの心」


そう言いながら
拓哉がベットから立ち上がる。


成長期真っ只中の拓哉の身長は軽く上原を越していた。


「…ばかな事言ってないで教室に戻りなさい」


「センセー、小さいね。

155センチくらい?

ってゆうかすっごい童顔だよね。


オレてっきり生徒かと思った(笑)」


上原の言った事なんか耳にも留めずに
拓哉が笑う。


そんな拓哉の様子に
上原が真剣な表情をして口を開いた。


「加藤君、3年でしょう?

もう受験じゃない。


こんなところで暇つぶしてる場合じゃないでしょ?」


普通の先生のような上原の言葉に

拓哉が笑い出す。


そしてニヤつきながら上原に一歩近づいた。


「センセーってさ、オレの事知らないの?

…オレここの理事長の息子。


受験なんか親がどうにかしてくれるよ」


ひょうひょうと言う拓哉を…

上原が不審な目で見つめた。



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