それからしばらくして
拓哉の耳にある噂が飛び込んできた。
「ね、拓哉知ってる?
教育実習の賀川と保健の上原できてるらしいよ」
驚いた表情を見せない拓哉に
目の前の女が不満気な顔をする。
「知ってたの?」
「や、知らなかった〜。
そうなんだ〜すげぇね」
あの事があってから
拓哉はすっかり以前と同じ生活を送っていた。
休み時間には必ず女が寄ってきて
毎日違う女と帰って
教室ではへらへら笑って
毎日のように泊まりに行くと昂一に呆れられて
昂一の母親の料理に家族の暖かさを感じて…
なのに…
心が満たされない。
あの日
1度だけ満たされた気持ちが
拓哉の記憶の奥底にもぐりこんで…
出て行こうとしない。
あの時の空の青さが…
上原の言葉が…
今でも拓哉の心を支配していた。
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