【短編】初恋物語-缶コーヒー-



それからしばらくして

拓哉の耳にある噂が飛び込んできた。



「ね、拓哉知ってる?


教育実習の賀川と保健の上原できてるらしいよ」



驚いた表情を見せない拓哉に

目の前の女が不満気な顔をする。



「知ってたの?」


「や、知らなかった〜。

そうなんだ〜すげぇね」



あの事があってから


拓哉はすっかり以前と同じ生活を送っていた。




休み時間には必ず女が寄ってきて


毎日違う女と帰って


教室ではへらへら笑って


毎日のように泊まりに行くと昂一に呆れられて


昂一の母親の料理に家族の暖かさを感じて…



なのに…








心が満たされない。










あの日



1度だけ満たされた気持ちが



拓哉の記憶の奥底にもぐりこんで…





出て行こうとしない。







あの時の空の青さが…





上原の言葉が…







今でも拓哉の心を支配していた。





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