【短編】初恋物語-缶コーヒー-



「拓哉?」


急に後ろから呼びかけられて

拓哉が体を弾ませた。


振り向いた先にいたのは同じクラスの女だった。



「何?

どしたの?」


無言で振り向いた拓哉の顔は
無表情で…

そんな拓哉を不思議そうに女が見つめる。


言葉が…

声がでなくて拓哉が黙っていると…


「だって…

いつも急に来るんだもん」


保健室の中から上原の声が聞こえてきた。


その声に気づき

拓哉を見つめていた女の視線が部屋の中へと移される。


「え…上原と賀川じゃん」


小声で拓哉に言いながら
興味深そうに顔を緩めている。


「だって急に芽衣の顔がみたくなってさ(笑)」


賀川の言葉が

上原と賀川の関係をはっきりさせた。



「え…この2人付き合ってんの?

えぇ~…」


興奮した女の声が大きすぎたせいか

賀川が何かに感づき、ドアを勢いよく開けた。



そして拓哉と女の姿を見つけて…

首を落として大きなため息をつく。


「おまえらいつからいたの?」


「ってゆうか、付き合ってんの??」


目をキラキラさせた女の質問には答えずに

賀川が部屋を後にする。


女はしつこく聞きながら賀川の後を楽しそうについて行く。




残された上原が


廊下に立ったままの拓哉に遠慮がちに声をかける。



「あの…

加藤くん…」


まだ…

賀川に見せた『女』の顔が抜け切ってない上原を



拓哉が睨みつけた。




険しい拓哉の表情に体を固まらせた上原の腕を掴み

保健室のドアを勢いよく閉めた。





持っていた2本の缶コーヒーが



保健室の床に音を立てて転がった。









.