その日の放課後、
拓哉は何人かの女の誘いを断って保健室に向かっていた。
缶コーヒーを2本買って。
さっき言えなかったお礼を言うために。
別に本気で相談に乗ってもらおうなんて思ってなかった。
ただ傍にいてくれれば…
それだけで救われた気分になる。
それだけで十分満足だった。
保健室の冷蔵庫の中には
いつもブラックの缶コーヒーが置いてあるのを
知っていた。
…童顔でも大人なんだな(笑)
そんな事に顔をゆがめながら保健室の前で足を止めた時…
中から声が聞こえた。
「ここには来ないでって言ってあるのに…」
上原の声だった。
なんだか意味深な言葉に興味がわき
拓哉がドアを少しだけ開けて中を覗き見る。
いつもの椅子に困った顔をする上原の姿があった。
口を少し尖らせて…
頬を少しピンク色に染めていた。
いつもとは違う顔をする上原に見入っていた時…
上原の視線の先にいる人物が話し出す。
「待ってたくせに(笑)」
聞き覚えのある男の声に
拓哉が視線を移した。
…―――賀川
上原が拓哉の知らない表情を向ける先には
少しネクタイを緩めたスーツ姿の賀川の姿があった。
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