「加藤君?」


上原の声で拓哉が我に返った。


「…センセー

なんか心臓がドキドキしてるんだけど…


何これ?」


拓哉が真剣に聞いた言葉に

上原が小さくため息をついた。


「加藤君、恋愛なら生徒としなさい。

そんな事言っても騙されないわよ」








…―――『恋愛』?






これが…?




拓哉がもう一度自分の胸を押さえる。


まだ早いリズムで刻む心臓の振動が手に伝わった。


「加藤君?

…やっぱり心臓悪いの?


昨日の…もしかして本当?」


心配する上原の顔を見ると

また自分の体がおかしくなるのがわかった。



「…じゃあね、センセー!」


自分でも止められない衝動に焦って
拓哉が保健室を後にしようとした時…


上原が拓哉の腕を掴んだ。


「待って!」


振り返った瞬間に目に飛び込んできた上原の真剣な表情に

拓哉の体が固まる。


「心臓…

悪いの?」


上原の言葉が耳をすり抜けていく。


拓哉の全神経が

自分の腕を掴む上原の手に集中していた。



決して強い力じゃないのに…

掴まれたその部分だけが熱くて…


拓哉が上原から目を逸らす。


「加藤君…」


「や…超健康だから!

じゃあね!」


焦りながらそう言うと

拓哉が上原の腕を振り払って保健室のドアを閉めた。






なんだ…コレ…




静かな廊下に


拓哉の心臓の音が響いていた。




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