彼があたしを好きじゃないことくらい、そんなのは最初からわかっていた。

わかっていたけれど淡い期待を抱いて彼の誘いにのったのは、あたしは彼を好きだったから。

好きだったからこそ、心のどこかで彼とこういうことになるのを、あたしは望んでいたのかもしれない。

それでも、いざとなったときにふと気づく。
本当にこれでいいのか、と。あたしは後悔しないのか、と。だからあたしは、結局彼を拒んだ。たった一度のキスを最後に。


「……もう、いいよ。帰る。」


そう言った彼の、表情を見ることはできなかった。きっと今日限り彼に会えなくなると、なんとなくそんな気がしたから。


「…っ、待って。あなたのことが、嫌いな訳じゃないの…!あなたのことは好きだけど、でも……、」


もう遅いのだと、それはわかっていたけれど。縋り付くように必死で言い訳を並べ立て、彼の袖を握る。

けれど彼はもうあたしに視線さえも向けないまま、無言であたしの手を振り払った。

――まるで、あたしたちの関係の終わりを告げるように。

遠ざかっていく足音に、もう振り返らない背中。

二度と彼に抱きしめられることはないのだと悟り、振りほどかれた手を涙とともに抱きしめた。





  もう一度キスして


  ( もう戻れないと )
  ( それはわかっていたけれど、 )