そして、


「………ない。」

「え?」

「勝手に行けばいいじゃない!一々そんなこと、あたしに言わないでよ!」


半ば叫ぶように、そう言い放つ。
本当は行かないでって、ずっとあたしの傍に居てって、そう、思ってるのに。


「美凪さんのところに行って、こき使われればいいのよ!」


馬鹿。
あたしは本当に、馬鹿だ。

素直になれなくて、そんな思ってもいない言葉を吐き捨てて。

隣で返事もなく立ち上がった莱を、止める術なんてもう、何一つ持ち合わせてはいなかった。

遠ざかる、莱の背中。
追いかけて抱きつくなんてこと、今はできない。

尊敬して感謝していたはずの美凪さんが憎い。莱を静かにあたしから奪っていった美凪さんが、許せなかった。

美凪さんが悪いわけじゃないことは、きっとわかっていたけれど。