桃色チェリー


…――ら、い?

どうして、だろう。
もやもやと胸に広がる、どす黒い気持ち。
体中に渦巻く、不安。

ただ差し出された手を握っただけの莱の行為が、どうしようもなくあたしを不安にさせる。

きっと、たぶん、莱が他人の手をとる姿を見たことがなかったから。
莱があたし以外の人の手をとるなんて、想像もできなかったから。

そう思い込もうとして、沸き上がる感情に蓋をする。


「…――芽梨?」

「……え?」

「早く行くよ。」

「あ、うん。」


ただの、気のせいだったらいいのに。
気のせいだとは思えないのは、あたしが今まで莱をずっと見てきたから。莱の少しの変化を見逃さないくらい、莱が大好きだったから。

何かが、違う。

助けるために差し出された手は、逆にあたしを不安にさせただけだった。

抗争からは守られても、あたしの大切な人があたしから離れていくような、そんな嫌な予感がした。