桃色チェリー


「…――なら、子供達はあたし達が避難させます。」

「ええ。よろしくお願いします。」


そう言った先生が、高瀬美凪に深く頭を下げる。そんな先生に優しく微笑んだ後、彼女の視線は莱と莱の後ろに隠れるあたしへと向けられた。

そしてゆっくりと、あたし達の距離が縮まっていく。


「大丈夫? 怪我とか、ない?」

「……大丈夫、ですー。」


若干腰を曲げてそう問い掛けてきた彼女に、答えたのは莱だった。ここから莱の表情は見えないけれど、きっといつも通り無表情なんだろう、多分。

でもそんな莱の返事を聞いて、高瀬美凪は柔らかく、心底安心したように頬を緩める。女のあたしでも綺麗だと思えるような優しい優しい笑顔で、目の前の惨状にショックを受けていたあたし達を、あたたかな光で包み込むように。


「そっか。ならよかった。……じゃあ、行こうか。」


そして目の前に、差し出された手。
中指に変わったリングが光るその手を、莱がゆっくりと握り返した。