「おい、これ捨てとけ」
母親が健気に片付けをしている那智に、わざわざ空になった化粧の下地クリームのチューブを投げ付ける。
コツンと額にチューブが当たり、那智は痛いと軽く片手で擦っていたけど、すぐに「分かりました」返事をしてチューブを拾っている。
よくも那智に……っ。
憤りたい気持ちが襲うけど、俺は必死に堪えた。
今はまだ、我慢だ。
「おい、珈琲」
外出前に珈琲が飲みたい、俺に命令してくる母親に会釈してキッチンに向かう。
くそっ、とことん俺等を使いパシリやがって。
さっさと出掛けやがれ、クソババア。
あくまで心の中で悪口(あっこう)を付く俺は、淹れたインスタント珈琲を母親に手渡す。
ご機嫌にそれを飲むかと思いきや、母親はわざと手を滑らせ(見え見えなんだよ)、テーブルに敷いてある絨毯に零してみせる。
「だ、大丈夫ですか」
こいつ、マジのマジのマジでふざけるなよ。
内心で罵詈雑言する俺だけど、表では慌てふためいてみせる。
「しっかりお前が渡さないから」
見え見えの失態を、俺のせいにしてくる母親。
灰皿に手を伸ばし、短くなった煙草を持つと火種を俺の左の手の甲に押し付けてくる。
痛みが走ったけど、「申し訳ございません」俺は痛みに堪えながら失態を詫びた。大丈夫、いつものこと。
「お前の失態は弟の失態だよな。連帯責任」
途端に俺は青褪めて、
「申し訳ございませんでした。
ですが、俺の責任なんです。那智にはどうか、どうか、」
もう一度、俺に火種を押し付けてくれるよう懇願。
何より俺の血相を楽しんでいる母親は、ガン無視して那智を呼びつける。



