「那智、ゼリーだ。みかんゼリーだ」
口元に運んで、口を開けるように辛抱強く指示。
すると那智が薄っすらと口を開けた。俺はゼリーの欠片を口に放り込んでやる。
小さく口を動かす那智は、「あまい」弱々しく俺に微笑んでくれた。
でももう要らない、お腹一杯、那智は口を閉じて食べることを拒絶。
食べる力さえないみたいだ。
「那智、後に三口っ…、三口でいいんだ。
食ってくれ。そして薬飲んで寝よう。
明日は兄さま、学校休んで傍にいるから」
傍にいる。
その言葉に那智が微小の反応。
「はるき…にーさま…おそば…いてくれる?」
「ああ、いてくれる。明日は那智とずっと一緒だ。だから頑張って食おう」
な―?
呼び掛けに那智は、頑張って口を開けてくれる。
俺は果肉を放り込んだ。那智は力のない咀嚼を繰り返した。
飲み込むまで待って、俺はまたゼリーを口元に運んでやる。
ひゅ…、喉を鳴らす那智は三口目にして力尽きた。
まだ食べた方がいいけど、もう那智は十二分に頑張ってくれた。ゼリーはまた明日だ。
俺は風邪薬の封を切って、カプセルを一錠取り出した。
風邪薬だ、解熱効果だってあるに違いない。



