× × ×


忍び足で家に帰ると、母さんの寝室から喘ぎ声が聞こえてきた。
どうやら家を抜け出したことは気付かれていないらしい。


良かった、もしも気付かれていた買ってきた物も金も没収されちまう。


金は三千円以上余った。

これはこれから先、俺等が病気をした時に使わないと。


気配を殺しながら俺は階段を上って自室に入る。


部屋では変わらず那智が荒い息遣いをしたまま、敷布団に身を置いていた。


「那智…」


静かに扉を閉めて、俺は那智の枕元に腰を下ろした。



「那智、食い物も飲み物も薬も買って来たぞ。起きろ、辛いだろうけど起きてくれ」



声を掛けて、名前を呼んで、優しく那智の額に口付け。


すると那智はジンワリと薄目を開けた。


はぁはぁ、息を乱しながら、瞬き。

頭を動かして、弱々しく「兄さま?」名前を紡いでくる。

重たそうに腕を持ち上げて、小さな手が俺に伸びてくる。


落ちそうになる手を掴んで、俺はしっかりと手を握り締めてやった。



「那智。ごめんな。きついな。辛いな」



何度も詫びながら、那智の上体を起こす。

俺の体に寄り掛からせて、「ゼリー食おう」じゃないと薬が飲めないから、ビニール袋からゼリーの入ったカップを取り出す。


蓋を開けて、プラスチックのスプーンで掬い、「あーん」口を開けるように指示。


那智は分かってないみたいで、うつらうつらとそれを見つめるだけ。