―――…。
俺はドアノブから手を離して踵返した。
ゆっくりと自室の扉を開けて、熱に魘されている那智の元に、腰を下ろして見つめる。
「那智。てめぇ、昨日も今日もあいつ等に苛められてたんだな。
でも俺に心配掛けないように…、我慢してたんだな。
ごめんな、気付けなくて。知らなくって。守れなくて」
優しく頭を撫でて俺は那智を軽く抱き締めた後、急いで薄い上着を羽織った。
季節は秋初め、まだ残暑は残っていて暑いけど、この上着の薄さなら怪しまれなくて済むだろう。
「少しだけ我慢な」
ひとりにすることを詫びて、自室を飛び出す。
階段を下りて、汚いスニーカーを足に引っ掛けて、勢いのまま外へと走った。
日はもう暮れてしまっている。
「那智、待ってろ…。待ってろ」
今回だけは母さんに頼れなかった。
母さんに頼ったら最後、病死を望む母さんに「放っとけ」のヒトコトで切り捨てられる。
母さんにだけは死んだって頼るもんか。
「くそっ、畜生…、あんな奴っ、あんな奴、母親じゃないッ!
那智の命を塵みてぇに言いやがって」
俺も那智も塵じゃねえ、母さんの玩具じゃねえんだ。
俺等が何をしたっていうんだ。
産んだのはあんたじゃないかっ。
大事にしてくれないなら、苦痛ばっかり与えるなら、地獄を見させるなら、どうして俺等を産んだんだ―――!



