「にいしゃ。
なちとにいしゃのもじ、おしえてくらしゃい。なち、なまえ、かきたいの」
ぼんやり那智を見つめてたら、ひらがな表を見つめてた那智が文字を書いてみたいって口にしてきた。
我に返る俺は「いいよ」弟に微笑んで、チラシ紙を取りに部屋を出る。
戻って紙と鉛筆を渡してやれば、「まずはにいしゃ!」畳の上に寝そべって自分の名前からじゃなく、俺の名前を書こうとぎこちない手付きで線を引き始める。
畳の上で線を引くもんだから、字が余計ガタガタだ。
一笑しながらも、俺は那智の頭に手を置いて、弟に微笑む。
「那智、兄さまとずっと一緒だぞ」
声に反応する那智は、「はい」無邪気に頷いた。
本当の意味を理解するのに那智はまだ幼過ぎる。
俺の言う一緒にいるに、ただただ無邪気に笑っていた。
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