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那智は俺のことを『にぃ』から『にいしゃ』と呼ぶようになった。
俺を呼ぶ時は『にいしゃ!』と名前を連呼して、学校から帰ってきた俺に駆け寄って来る。
俺が学校に行っている間、那智は大抵家に一人。
時に母さんが一緒にいることがあるけど(すっごく母さんに怯えてるらしくて母さんの前じゃ喋らないらしい)、とにかく留守番をしている間は那智は大人しく家で待っている。
飯は大抵軽食、パンとかお菓子とか。
テーブルに用意しているのを、那智は文句も言わず平らげている。
ひとりで留守番の時は母さんに隠れてテレビを観ているらしい。
「クマさんがいたの!」
観たテレビの内容を、那智は健気に俺に報告して来てくれる。
俺は俺で一人で寂しいだろう那智の元に飛んで帰れるようにしてるんだ。
だって那智を一人にするって不安だし、学校より那智の相手する方がうんと楽しいから。
帰って来ると、那智は体いっぱいに喜んで俺の胸に飛び込んでくる。『にいしゃ』と呼びながら。
きっと俺のことを『兄ちゃん』って呼びたいから、『にいしゃ』になってるんだろう。
でも折角ならちゃんと『兄ちゃん』って呼ばれたい。
最近の俺は『那智を兄ちゃんと呼ばせよう計画』に燃えていた。
チラシの裏で作った手作りひらがな表で那智にひらがなを教えながら、俺は一生懸命弟に言葉を教えていた。
「那智。俺の名前は?」
「んーっとね、はるき! だからこれとね、これとね、これ!」
那智は順を追ってひらがなを指差し、俺の名前を答える。
よしよし、俺は満足気に頷いた。
「んじゃ那智の名前は?」
「んーっと…これと…これ?」
「那智、これは『さ』だぞ『ち』はこっちだ。さかなさんの『さ』で覚えような」
「はい。しゃかなさんでおぼえる」
うんっと素直に頷く那智。
よしよし、那智は物覚えが良くなってきてるな。
最初の頃こそ喋らなくてどうしようかと思ったけど、こうやって文字覚えるのは早い。
……ま、滑舌は相変わらずだけど。



