この日を境に、那智はどんどん言葉を覚えていくようになった。
簡単な単語から会話、四つになった今じゃ遅れを取り戻すべく、たどたどしいながらもぺらぺらだ。
俺としっかり会話してくれるようになった。
意味不明な単語をいくつか零すけど(その度俺は困り果てる)、それもご愛嬌。
喋るようになったら、よく甘えてくること。甘えてくること。
俺に抱っこや遊び、一緒に寝てくれるようを我が儘を口にしてくる。
でも聞き分けの良い子でもあるから、駄目なことは駄目って覚えさせればちゃんと頷くようになった。
同時期、母親に怖じを抱くようになった。
この頃から母さんは暴力が再発するようになり(多分喋るようになった那智がうざったいんだと思う。母さんと喋りたい那智によく怒鳴ってる)、母さんは自分にとって怖い人物なんだって認識するようになった。
怒鳴られたらグズグズ泣いて、俺に擦り寄ってくる。
俺はといえば、憤る母さんに必死に頭を下げて、ちゃんと言い聞かせるからって許しを乞いてばかりだった。
でも仕方がない、那智はまだ小さいんだ。
本当は母さんに甘えたくて仕方がない年頃、だけどうちの母さんはこれだから。
ちゃんと弟の面倒看てない俺を、母さんはよくぶつようになった。
こんなことがあった。
俺がトイレに行っている間に、那智が勝手に自室から出てキッチンへ。
喉が渇いたからってお茶を飲もうとコップを棚から取ろうとしたんだけど。
そのコップを落として割ったもんだから(しかもフローリングを傷つける事態になったもんだから)、母さんが激怒。
あやまって手を滑らせてコップを落とした那智を叩こうとした時、那智がいないことに気付いた俺が騒動を目前に顔面蒼白。
手を上げようとする母さんの前に出て謝り倒した。
けど母さんは許してくれなくて、
「てめぇ、何ボサッと弟を看てるんだ!」
殴る蹴るの暴行を繰り返した。
痛かったけど、那智の前では格好悪いところを見せたくなくって…、俺は母さんにただひたすら謝った。激情に流された暴力を受けながら。



