それでもなっかなか喋らない。
三歳になっても那智は単語という単語を発しようとしなかった。
あっれ、おかしいな。
図書館の本で借りた育児本には早い子供は一歳半で喋るって…、基本的には二歳くらいっぽいけど、那智はもう三歳だぞ。
やっぱ頭打って馬鹿になったんじゃないか…。
子供なりに心配してた俺の心配を余所に那智の体は大きくなっていく。
体は成長するのに頭は…、どーしよう、このままだったら。
うんぬん悩んでいたある日のこと。
俺はいつものように学校から借りてきた童話本でも読み聞かせてやろうと、那智を膝にのせたていた。
「那智、兄ちゃんがヘンゼルとグレーテル読んでやるからな。仲の良い兄妹の話だぞ」
くしゃっと頭を撫でたら那智は、視線を上げてニッコリ。
可愛い、俺は目で笑いを返し、中身を読み始める。
「昔々あるところに、ヘンゼルという男の子とグレーテルという女の子がいました。ヘンゼルはお兄さん、グレーテルは妹「にぃー!」
突然、那智が「にぃー!」って言葉を飛ばしたもんだから俺はびっくり。
那智って喋らないわりに、言葉にならない言葉は出すんだよな。
今回もそうだろって思ってたら、「にぃ!」那智はヘンゼルを指差して、次いで俺を指差して「にぃ!」と連呼。
「に…、にぃー」
「もしかして那智、俺を呼んでくれてるのか?」
俺ばっか指差して「にぃ」って言う那智に確信を得る。
那智は俺を呼んだんだって、その確信を。



