「那智だぞ、お前の名前は那智、なーち」
向かい合うような形で弟の顔を覗き込む俺、キョトン顔で俺を見上げてくる那智。
言葉は残念なことに口にしない。
真ん丸おめめが俺を見つめてくる。
仕方がなしに笑いかければ、那智もニコッと笑ってくる。可愛いんだけどなぁ、そろそろ喋ってくれても…。
「そっろそろ兄ちゃんって呼んで欲しいんだけどなー、那智くん」
那智はニコッ、俺もニコッ、内心複雑。
「やっぱ馬鹿だったのかなぁ…、那智って」
それとも育て方間違った?
んにゃ、母さんの言うとおりにしてたぞ、俺。
あ、母さんの言うとおりしてたから駄目になっちまったのかな。
母さん、人として色々と終わってるしな。
この頃から俺は母親に対して嫌悪感が芽生え始め、好意感が薄れていた。
どうせ何をしたって好きだとも言ってくれないし、甘えさせてもくれない。
それを重々分かっていたから、俺は那智に愛情を向ける。
那智は笑い掛ければ笑ってくれるんだ。
こんな俺を一生懸命に求めてくれる。
どっちが大切かって言われたら迷わず弟を選ぶ。
それにしても喋らないよな、那智。
俺は本気で那智が馬鹿なんじゃないかって心配していた。
二歳になっても喋らないんだぞ、那智。
だから那智を連れて、市民図書館に行っては絵本を読み聞かせたり、喋り掛けたり、母さんがいない時にこっそりとテレビを観させたり。



