そして桜の蕾が膨らみ始めた冬の終わり。



俺の弟が生まれた。

六つ下の弟が生まれた。


初めて対面した弟は何だかとても弱そうで、こんな奴がお母さんの暴力に耐えられるのかって首を傾げたほどだ。

目も開いてねぇし、手も人形みたいに小さいし、体もちっさ過ぎだし…、全部がちっちゃいし…。

こいつは俺と同じ生き物なのか? そんな疑問さえ抱いた。


んでもって生まれて数日後、弟を抱かせてもらったけど、すっごく軽くて驚いた。


でも、可愛かった。

寝てる小さな弟に俺は言ったんだ。



「こんにちは、俺がお前の兄ちゃんだぞ。早く一緒に遊ぼうな」



それからまた数日後、名前が決まった。

赤ん坊の名前は下川 那智(しもかわ なち)。お父さんが決めたんだって。
お父さんが決めてもお母さんが決めても、俺的にはどっちでも良かったんだけど、名前には納得。


うん、いい名前だ。


家に連れて帰った後も、俺は弟の傍を離れず、寝ている赤ん坊に話し掛けた。
静かに話し掛け続けた。



「那智、早く治樹兄ちゃんって呼んでな。俺も那智の名前、いっぱい呼んであげるから」

 

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