だから、
「那智」
後ろから抱き締めて存在をアピール。
びっくりする那智は慌てて振り返ってくるけど、俺は構わずグリグリと肩口に顔を埋める。
「食器洗うなんざ明日だ、明日」
「でも兄さま。昨日もそう言って…溜まってるんですけど、食器」
「兄さまと食器、どっちが大切だ?」
「もー、その質問は卑怯ですよ」
きゅっと流しっぱなしの水を止めるために蛇口を捻って、那智はぽんぽんっと俺の頭を撫でてくれる。
ほら、こうやって俺を優先してくれる。那智は俺を一番に思ってくれている。他人だったら絶対にない、愛情を向けてくれるんだ、那智は。
ガキん頃、俺はずっと人の温もりを求めていた。
両親でさえくれなかった温もりを、那智はこうやって当たり前のようにくれる。
だから俺は頑張れた。
弟を守ろうと精一杯行動を起こして、自由をもぎ取ろうと計画立てて、人並みの生活をしようと心に誓って。
最後は結局、自分達で捨てちまったけど、那智がこうやって俺のもとに生まれて、傍にいてくれて、愛してくれたおかげで、俺は今こうやって生きてる。生きてられるんだ。
「那智…、名前呼んで」
頭を撫でるだけじゃ足りない。
俺の訴えに、那智は微笑を漏らした。



