ふーん。
美咲は相槌を打ち、取り敢えず坊ちゃんにも挨拶をしておくかと思い立つ。
「ま、素っ気無い兄貴と違ってあの子は良い子そうだし」
「ば…馬鹿! 美咲ちん! 若旦那の悪口は坊ちゃんの前じゃタブーなんだって!」
血相を変える鳥井。
「え?」首を傾げる美咲は前方に視線をやり、目の前に那智が立って笑みを浮かべていることに度肝を抜く。
笑みを作りながらも、キョトン顔を作る那智は、「貴方はだあれ?」首を傾げた。
「貴方はにーさまの味方? それとも敵?」
那智はパーカーのポケットから折り畳み式の果物ナイフを取り出す。
「ゲッ」美咲は声音を上げ、
「坊ちゃん、新入社員なんだって!」鳥井は必死に説明。
しかし聞き耳を貸さない那智は、ニッコニコ笑顔を零しながらナイフの刃を出した。
「にーさまの敵はおれの敵。さよならしましょう?」
何だこの少年。
狂気染みた笑みを浮かべる那智に畏怖の念を抱いていると、
「ちょちょちょっ、坊ちゃん落ち着いて!
ああくそっ、若旦那! あんたが坊ちゃんに説明しないと聞く耳持たないんだぞ! 説明してくれって!」
鳥井が怒声を上げ、
傍観者になっていた治樹は仕方が無さそうに、
「那智、そいつは社員だそうだ」
「う? じゃあ味方?」
「ま、一応な」
兄貴が淡々と説明。
すると那智はナイフを折り畳んで、素直にごめんなさいと謝り、颯爽と兄のもとに駆けた。