「にーさまの匂いがする。にーさまぁ…、やぁです。どこにもいかないで。みんな、嫌い。大嫌いです。
でも兄さまは好き。大好きですから…傍にいて下さい。ずーっと」
何処にも行っちゃヤダ。
那智は顔を埋めたまま、俺に我が儘を言ってきた。
静聴していた俺はただただ背中を叩いて心地の良い束縛に支配されている。
「にーさま、何処にも行かない。那智を置いて何処にも行かない」
「ほんと?」
「ああ、ほんと。兄さま、嘘付いたことあるか?」
「ないです…、にーさま…大好き」
「兄さまもだ。那智、約束してやるからテメェも何処にも行くなよ」
「はい…」
安心したように那智は笑顔を零した。
ゆっくり瞼を閉じて「ずっと…」魔法の呪文を俺に掛けてくる。
「ずっとだ」
綻ぶ俺は那智の小さな体を抱き締めて温もりを貪っていた。
束縛されることが心地良い。本当に心地良い。
学校に行きたくないと口走る那智が可愛くて、俺のいない場所に行きたくないと駄々捏ねる那智が愛おしくて仕方が無かった。
結局、その日は那智が変に子供っぽかったのと、泣き疲れて寝ちまったもんだから、俺は何も聞けず仕舞い。
傍にいてやることしかできなかった。



