「那智」
名前を呼んでも返答は無い。
寝室に足を運んでもやっぱ那智はいなくって…、まさか外に出たんじゃ…、玄関で靴を確認。
那智の履いているシューズはあるから家にはいるようだ。
急いで部屋の中を探すと、那智は直ぐに見つかった。
那智は浴室でシャワーを浴びていた。
普通に浴びてるなら安心もできるけど、那智は学ラン姿のまま、座り込んで頭からシャワーを浴びていた。
しかもこの季節にはまだ早過ぎる水浴び。
「那智!」
お前何してるんだ、俺は急いでシャワーを止めて那智に駆け寄る。
氷のように体は冷え切っていた。紫色の唇を見る限り、随分長いこと水浴びをしていたようだ。
俺の呼び掛けに軽く反応する那智は、のろのろと顔を上げて、力なく微笑。
「にーさま…おかえりなさい」
「てめぇっ、何してるんだ! ンなに冷えて…、すぐに着替えるぞ」
那智の腕を引いて、浴室を出る。
けど、那智が動かないから失敗。ぎゅっと那智は俺の手を握ってくる。
「那智?」
振り返って、本当にどうしたんだと顔を覗き込む。那智は力なく笑っていた。
「うふふっ、にーさまだぁ…。にーさまぁ…。あったかいです」
「那智…どうしたんだ? マジで…」
「にーさまぁ…。ずーっと一緒。ずーっと…うふふっ、見られくなかったのに…、見られちゃいました…」