ぼんやりと珈琲を啜っていた俺だけど、ふと気付けばマグカップを落としていた。
零れ散った珈琲に目を落とし、拭かなきゃいけねぇって念よりも先に思っちまう。

どうしたら不安を散らすことが出来るんだろうって。


「情けねぇ…」


俺は落としたマグカップを拾うと、何を思ったのか感情余って叩き付ける。
割れるマグカップにさえ感情が湧かない。


不安だけが俺を支配していた。


「嫌だ…、俺以外の世界を知らないでくれ。行かないでくれ。ひとりにしないでくれ、那智」


母親の代わりに出てきた支配は、ある意味虐待よりも苦痛だった。

手の平に爪を立て、俺は大きく苦悩する。


繋ぎ止めておきたい、その気持ちが俺を更なる不安の波に溺れさせた。