嗚呼―…。
俺をこんなにも愛してくれる奴がいる。
ひとりぼっちだと思ってたあの頃からは想像もできない、優しい温かさ。
腕の中にいる那智を押し潰すように敷いて、俺は目を閉じる。
圧迫することで聞こえてくる那智の鼓動。そして俺の鼓動。命の音。俺と那智の生きる音。
同じ母体から生まれた俺等は、同じ血が体内に流しながら生きている。
兄弟という絆を育んでいる。
俺等は確かに、唯一の家族を愛し合ってる。
「治樹にーさま…、名前、呼んで」
愛しい声が俺を呼ぶ。
返さないと、愛しい声が俺を呼んでるんだから。
「那智」
手を重ねて、握り締めて、もっと体を密接にくっ付けないと。
愛しい存在が俺から逃げないように。
「那智」
名前を呼び続けないと。
愛しい存在が俺しか考えられないように。
「那智…、あいしてる」
ふんわりと笑って、俺は六つ下の弟の額に唇を落とした。
擽ったそうに笑う那智に夢中だった俺は、廊下でこっそりと俺等の様子を窺っている母親の存在に気付かなかった。
奴が俺の弱点を見破ったのを、俺自身気付く余地もなかった。



