さてと、そんな脅しばっかりしている悪人の俺はといえば、高3に進級しているわけだから受験勉強に勤しんでいる。
将来のために、国立大学を狙っているわけだ。大学のブランド名は使えるからな。
今までは机も椅子もない自室で勉強していたけど、現在はリビングのテーブルでのんびり勉強。
那智に淹れてもらった珈琲を飲みながら、ゆったり勉強している。
俺が勉強している間、那智も漢字の特訓。
念願のテーブルで勉強できるもんだから、苦手な勉強も楽しいらしく、せっせと漢字に取り組んでいた。
「“けっかん”住宅のけっかん。
うーんっと…、あ、血管(ちかん)って昔読んだ、あの字だ。血管っと。
うーん血管住宅ってなんか悍ましい…、血の家ってことかな?」
「……。那智、もっぺんよーく読め。全然違うから」
「え゛? うーんっと、うーん?」
向かい側の席で首を傾げている那智に、俺は一笑を零す。
やっと仮平和が俺等のもとにやって来たな。
こうやって和気藹々と勉強できる日が来るなんて…、ひとりだったあの頃からは想像も付かない。
最愛の弟と一緒に穏やかな時間に身をおきながら、普通にリビングで勉強。
普通がこんなにも素晴らしいもんだったなんて。
きっと那智と二人暮らしを始めたら、もっと素晴らしい世界が切り拓かれるに違いない。
いや…、切り拓いていくんだ、那智と二人だけの世界を。
俺は腰を上げて、那智の隣に回ると、くしゃりと頭に手を置いてノートを覗き込む。
丸っこい字で書かれた字の羅列。それは那智の努力の証だ。
漢字苦手で奇想天外な答えばっかり書く那智だけど、こうやって間違った漢字はちゃんと書いて覚えている。
こう見えて那智は努力家なんだ。



