那智はまた一つ頷くと、孝之と一緒に自室に向かった。
自室の開閉音を耳にした俺は、「さてと」これからどうしようかとわざとらしく肩を竦める。
「此処で俺があんたを甚振ってもいい。忠志達に手を下してもらってもいい。慈悲をあんたにくれてやる。好きな方を選べ」
「ちょー慈悲深いなぁ、下川は。どっちにしろ地獄じゃねえか」
「だろ?」シニカルに笑う俺に対し、忠志も怖い怖いと皮肉交じりに笑う。
笑えないのは母親だろう、すっかり血の気を引かせて身を震わせている。
今更ながら女ぶった仕草を見せるけど、俺にとっちゃ無効化だぞ。
あんた、俺等に母親らしい一面も、女ぶった一面も見せてねぇんだし。
「取り敢えず、一発かましといたら? 治樹」
仲間内の提案に、「確かに」俺は喜んでそれに乗った。
ズカズカと母親に歩み寄って、
「これは散々甚振られた那智の分!」
パン―!
俺は母親の胸倉を掴んで、容赦なく平手打ち。
唖然としている母親に、「これは俺の分!」もういっちょ平手打ち。乾いた音が室内を満たす。
「わーお、女相手に下川もやるな。まあ、俺が下川ならオンナにすら見たくねぇがな」
「人間にすら思いたくねーよ」
俺は冷然と忠志に言い、母親に視線を投げた。
勿論これで気が済むわけねぇ。
はい、これで許します…なんざ、どんだけ寛大な精神の持ち主だ。
生憎俺は普通の人間。聖人じゃねえっつーの。
恨みを抱けば、しかも濃厚な恨みを抱けば、そう簡単に許してやることは出来ない。



