「ご主人様って呼ばされただけですから…。ちょっと失敗したら…、お仕置きで叩かれて…。変に触られてっ…、おれっ、ドーブツ扱いでした」


―…ッ、あの野郎。

ド変態じゃなく、ドドドドド変態だったのかっ。
憤る俺に、那智は力なく笑った。


「おれ、ダイジョーブなんですよ。だって、その人がおれをドーブツ扱いしても、兄さまは人間扱いしてくれますから」

「那智っ…」


「兄さま、おれはみんなといっしょですよね? 兄さまと同じ人間ですよね?」

「当たり前だろっ、てめぇは俺と同じ人間だっ。俺の大事な弟で人間だっ」


力いっぱい那智を抱き締めてやる。
小刻みに震えている那智は、「よかった」涙を滲ませながらも懸命に笑った。笑ってみせた。俺を心配させないために。

おかげで俺の方が涙を誘われた。


はらはらと涙の粒が伝い落ちていく。


「ごめんっ、ごめんなっ。傍にいてやれなくて。兄さまの力が及ばなくて」

「にーさま、泣かないで。なかないでっ。にーさまはっ、何も悪くないんですからぁ…ッ」

「ごめんっ…、ごめん、那智」

「兄さま…、大好きですっ」


ポロポロとホロホロと泣く那智は、

「兄さまが人間と見てくれるだけで幸せですっ、おれ、幸せ」

そう言って俺をキツク抱き締めてくる。


ホロホロとポロポロと泣く俺は、

「っ、馬鹿っ、幸せなんて言うなよ。当たり前のことじゃねえか」

そう言って那智を抱き締め返す。



俺達は確かに従順ぶった犬を演じてる。
演じてるけど、魂まで犬になった気はない。



嗚呼、誰かに咆哮して訴えたい、俺達は周囲と変わらない人間なんだ! って―――…。




⇒02