重い足取りで寝室に戻った俺は、封していた感情を爆ぜさせ、力任せに枕を叩きつけた。
「よくも那智をっ、那智を!」
母親と押元の両方に怒りを感じ、俺は叩きつけた枕を踏み潰す。
だけどそれで状況が改善できるわけじゃない。
溜息をついて、俺はぺしゃんこの枕を拾い上げた。
「これ、一つしかないんだから大事にしないとな」
膝を折って、枕の形を整える。
那智が戻るまで待とう。
明日学校があるとかそんなのどーでもいい。那智が来るまで眠れない。眠気さえ襲ってこないんだ。
電気を消して、俺はただ暗闇の中、那智を帰りを待った。
本当は電気を点けておきたいけど、母親が光熱費に関して煩ぇから。
窓辺に腰を下ろして、夜風を感じながら片膝を立てて那智の帰りを待つ。
欠けた月は真上に昇っていた。
傍に那智がいないだけで、あの月が綺麗かどうかも判別が出来ない。
感情の無い人形のようにいつまでも那智を待ち続けること数時間、向こうから足音が聞こえた。
瞳に光が戻った俺は我に返ってドアを見つめる。
程なくして、おずおずとドアが開いた。
中に入って来たのは待ち望んでいた兄弟。
よろっとしながら、寝室に入ってくる那智は俺の姿を見つけるや否や、「にーさまっ」細い声で鳴いた。
「那智!」
急いで那智に駆け寄ると、腕の中に抱き込んだ。
膝を折る那智に倣って、俺も膝を折ると、「大丈夫だったか? 何もされなかったか?」しきりに安否を確かめる。
ギュッと抱きついてくる那智は、うつらうつら顔を上げてクシャッと泣き笑い。
「にーさまっ、おれ、だいじょーぶですよ。だって、兄さまが仰ってくれましたもん。我慢すれば、いつかは、幸せになれるってっ…だからっ…なにも、怖くっ」
「……、アイツになんかされたんだろ? そうなんだろっ」
ボロッと涙を零す那智だったけど、ゴシゴシと強く手の甲で涙を拭って洟を啜った。
んでもって曖昧に微笑。



