「ひらがな時代は素直に文字、覚えてくれてたのにな。漢字が此処まで酷かったとは。いつも算数バッカ持ってくるから、てっきり算数が那智にとって難しいもんだと思ってたんだけど」
「算数は面白いですから」
先まで教えてもらいたい、那智は笑顔で答える。
その笑顔に俺も極上の笑顔を作って、「今日から漢字特訓だな」那智に特訓宣言。
「えええっ!」
算数がしたいと駄々を捏ねる那智の両頬を抓んだ。そのままマッサージ。
「那智くん、漢字は日本人にとって必要不可欠なんですよー。兄さまと徹底的にオベンキョウしましょうねー?」
「ううっ、でもぉ」
「でももクソも何もねぇ! こんな点数取りやがってっ、しかも兄さまに黙ってやがっただろ?!」
「うーん、黙ってたんじゃなくって。兄さまが聞かなかったからぁ」
「減らず口叩くのはこれか? んー? …ん?」
俺は眉根を潜めて耳を済ませる。
……どうやら、和気藹々としたやり取りはこれで仕舞いのようだ。
下で玄関の開閉音が聞こえた。
奴が帰ってきたようだ。
まったくもってお早いお帰りだ、俺等が言い付けを守っているかどうか早めに帰ってきやがったな。
「治樹! 那智! 下りて来い!」
ビクッと体を震わせる那智にクシャリと頭を一撫で。
「勉強は今度な」
軽く体を抱き締めた後、俺は那智の持っていた教科書やらプリントやらをランドセルに仕舞ってやる。



