「今夜はちょっと遠出しよう。アル、外套を持ってきてくれ」

部屋に来るなり、夕星は迎え出たアルに向かって指示した。
セドナが驚いたように、夕星に駆け寄る。

「夕星様、と、遠出とは? このようなお時間から朱夏姫様を、どこに連れ出すというのです? お供は・・・・・・」

矢継ぎ早な質問に、夕星はアルが持ってきた外套を朱夏に被せながら、面倒くさそうに答える。

「心配するな。城の敷地からは出んよ。供もいらん」

さっさと外套を着た朱夏の手を取り、窓からテラスへと出る。
心配そうなセドナを振り返り、朱夏は『ユウがいるから大丈夫』と小さく言った。

庭を抜けると、月毛の馬が繋いである。
夕星の軍馬だ。

夕星は綱を解いて手綱を取り、ひょいと飛び乗った。
すぐに手を差し伸べ、朱夏を引き上げる。

夕星の前で馬に揺られながら、朱夏は空を見上げた。
満天の星が見える。
雨の季節が明けた証拠だ。

「どこに行くの?」

しばらく進んでから、朱夏は夕星に言った。
馬に乗っているとはいえ、別に走らすほどの速さでは進んでいない。
このペースで進むのであれば、遠出といっても知れている。