「湯加減は大丈夫だった?」


途中廊下でのぶに出会い、着物を出してもらったことに礼を言う。


「はい。すみません、突然押しかけた挙げ句図々しく風呂まで借りて、それに着物まで」

「いいのよ。そんなこと気にしないで」

「かたじけない」



頭を下げたままの永倉を見つめるのぶは、数ヶ月前に弟が来た時のことを思い出していた。



「歳三がね。あなたが帰ってきたら、矢央ちゃんと一緒にいさせてやってほしいって言ってきたの。だから遠慮しないで、此処でゆっくりしていってね」

「土方さんが……」


新選組を去った自分を受け入れてやってほしいと言っていたことを知り胸が熱くなった。


風の噂で土方が蝦夷地に向かったことは知っていたが、そのあとの土方の行方は知らない。



「矢央ちゃん最近元気がなかったの。歳三が訪ねてきてから誰も来ないし。どこか私達にも遠慮してるしで、表には出さないけど本当は寂しいおもいしてたのよね。
あなたのために料理を作ってるんだけど、あんなに笑ってるの久しぶりに見たわよ」



のぶの笑みに笑みで返した永倉はそわそわとしていて、察したのぶが奥の部屋を指差した。


そこは台所で、行くのは良いが邪魔したら怒られるわよと何気に脅されながらも永倉は足早にそこへ向かう。




台所へ入ると、てきぱきと料理の支度をする矢央がいて、良い匂いに腹の虫が鳴った。



「…料理の腕上げたのか」

「え?あ、新八さん!?上がったんですかっ。てか、こっちじゃなくて居間にいてくださいよ!」


慌てたのか包丁を顔の横で振り回す危険な行動を取る矢央にヒヤヒヤさせられた永倉は、居間にと言われたのに居間ではなく台所へと足を踏み入れ、更に慌てる矢央の包丁を持った方の手首を掴んだ。



「振り回すな危ないだろ。それより、上手そうだな」

「…ううっ。えっと口に合うか分からないけど、のぶさんに毎日教えてもらったんで、昔よりはまともに作れるようになったよ?」


頬を染め上目でちらちらと永倉を伺う矢央に、永倉の胸がきゅんと音を立てた。