ここに至るまで、何十という赤が生まれた。


赤い絵皿を傾けて、広香は静かな感慨に耽る。



血のように鮮烈ではなく、濁りのある色合いでもない、

温かみの中にも、ルビーのような透明な輝きを持つ赤を出したかった。




師匠が認めてくれた広香の青は、沖縄で見た海を再現したものだった。


さらには、
卒業旅行をした四人の眩しさ、
矢楚との愛の清らかさを内包した青。



しかし、赤には、めざすべき色が見つからなかった。

色に内包すべき景色もなかった。


広香が暮らすイタリアには、生命力に満ちあふれた赤が国中に溢れていたけれど、
鮮やかなトマトの赤色や、エネルギッシュな太陽を彷彿とさせる赤色も、

広香の魂に根付くことはなかった。



借り物のような魂のない赤ばかりだった三年を経て。



広香はとうとう、三年前、赤に込めるイメージを掴んだ。