「木下君がご近所さんで、助かっちゃった」
スッピンでも美しい……というよりは可愛らしい桃香が充に微笑みかける。
充は今にも変な気を起こしそうなのを、コーヒーの力でぐっと堪えた。
「近所と言えるほど近くはないけどね」
「でも、15分で来てくれたじゃない」
「車を使ったから。それに……」
好きな女に「助けて」と懇願されれば、夜中でも飛んで行くに決まっている。
アピールチャンス。
「それに?」
「いや、何でもない」
まさか「助けて」の対象が、クモだとは思わなかったけれど。
ゴキブリは平気なのにクモはダメ?
基準がわからん。
だけどそこがまた可愛い。
充は下心の裏でそう思った。



