桃香に咎められ、充はどんどん車のスピードを緩めていく。
結局桃香は法定速度になるまで許してはくれなかった。
法定速度を守って走るなんて、もちろん常にそうあるべきなのだが、充にとっては教習以来のことであった。
それからというもの、高速に入っても、
「ねえ、速い」
「お願い、ゆっくり走って。怖いの」
「左車線でいいじゃない」
桃香の指摘は続く。
充は好きに運転できないストレスで、桃香の私服どころではなくなってきた。
こんなに窮屈な思いをするデートは、人生で初めてだ。
「ねえ、池田さん。車に、何かトラウマでもあるの?」
桃香は車に乗ってからずっと、表情が硬い。
それに気付いていないわけではなかったのだ。



